私は1997年に大学を卒業しました。来年、社会人として30年を迎えます。
振り返れば、その道のりは数え切れないほどの変化と学びに満ちていました。
テロ、金融危機、組織再編、パンデミック、そしてAIによる急速な技術革新など、本当に多くの変化を経験してきました。
プライベートでも、結婚や出産という喜びから、介護や病気、大切な人との別れまで、様々な出来事を経験しました。
それでも私は今なお、自分の可能性を出し切っていないと感じています。
そして幸運なことに、コーチングの現場では、多くのリーダーが変化に挑戦する姿から学ばせてもらっています。
最近、その中の一人から大きな学びを得ました。
彼女はアジア太平洋地域を含む複数の国と地域の人事を統括するリーダーです。
出張、会議、意思決定。
スケジュールにはほとんど隙間がありません。
組織のトップで活躍するリーダーには共通していることがあります。
それは、とにかく時間がないことです。
6ヶ月間のコーチングを振り返る中で、彼女は多くの気づきを共有してくれました。
コーチング開始当初のテーマは、チェンジマネジメント、戦略立案、そしてチームメンバー一人ひとりがより大きな責任と役割を担えるように成長を支援することでした。
彼女は当初から、自分がどのようなリーダーでありたいのかを比較的明確に描けていました。
これまでにも多くのフィードバックを受け、その理想像と現在の自分を比較しながら、真剣に成長に向き合ってきた人です。
そして、その旅の途中で一つの重要なことに気づきます。
自分の成長だけでは十分ではない。
チームもまた成長しなければならない。
そして、チームの成長なくして、自分自身の成長にも限界があるということです。
そこから彼女は、自分とチーム、そしてその背後にいる多くのステークホルダーを含めた全体像を見るようになりました。
そのためには、目の前の問題だけでなく、より広い景色を俯瞰する必要があります。
彼女は比較的早い段階でその感覚を掴み、それが大きな成長につながりました。
そして、彼女にとって最大の学びは、
「手放す勇気」
でした。
振り返ると、彼女が向き合ったテーマはどれも共通しています。
- 話し過ぎること
- 指示を出し過ぎること
- 答えを与え過ぎること
- プレッシャーをかけ過ぎること
- 本質的なフィードバックを避けること
高い成果を出してきたエグゼクティブにとって、「もっと頑張る」「もっと加える」は自然な発想です。
一方で、「減らす」「任せる」「待つ」「手放す」は、多くの場合コンフォートゾーンの外にあります。
だからこそ難しい。
しかし彼女は、それらを一つひとつ手放していきました。
口を閉じる。
すぐに答えを与えない。
自ら動いて解決しない。
見守る。
相手が考え、行動するためのスペースを作る。
そして、傾聴力を身につけていきました。
その結果、多くの目に見える変化が生まれました。
何より大きかったのは、次々と発生する問題を自分が率先して解決しなくてもよいという感覚を得たことでした。
それは、自分のためだけではなく、周囲のためにもなるということを体感したのです。
すると、それまで問題解決に費やしていたエネルギーを、別の場所へ振り向けられるようになりました。
将来の組織設計。
チームの役割分担。
次世代リーダーの育成。
自分自身のリーダーシップの方向性。
これまで見えていなかった未来の景色を、少しずつ具体的に描けるようになっていったのです。
そして最終セッションで、彼女はこう言いました。
「チームを成長させるためにデレゲーションを始めたのです。
でも最終的には、それが私に先見の明を与えてくれました。」
私はこの言葉がとても印象に残っています。
先見の明とは、生まれ持った特別な才能ではないのかもしれません。
目の前の問題をすべて自分で解決しようとすることをやめる。
周囲を信頼する。
そして、自分の古い習慣や思考パターンを少しずつ手放していく。
そうして初めて見えてくる景色があるのだと思います。
このリーダーが手に入れたものは、単なるデレゲーションスキルではありませんでした。
それは、自分とチーム、そして多くのステークホルダーを俯瞰して見る力でした。
そして、その広い景色の中で、自分が本当に果たすべき役割を見つめる力でもありました。
先見の明とは、未来を見る力ではなく、
未来を見るためのスペースをつくる力なのかもしれません。
※本記事で紹介している事例は、ご本人の許可を得たうえで掲載しています。なお、コーチングにおける守秘義務に配慮し、一部内容は個人および組織が特定されないよう編集しています。
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